時代の”共振者”を見つける−クリティカルな2人が組んで実現したい社会とは

「誰もが自分を表現できる社会にしたい」

スッと伸びた姿勢からは自信が、瞳の奥からは真剣さが2人からひしひしと伝わってきた。

イベント運営、組織作り、営業…。学生時代中、数々のビジネスを経験し、一年半前に出会い、実現したい世界のためにタッグを組んだ2人。インタビュー中に何度もでてきた”表現”というワードに、膨大な想いが込められていた。



櫻井 祐太(さくらい ゆうた)

幼少期を台湾とアメリカで過ごし、帰国後は日本のIB校に入学。大阪大学に入学、ベトナム語を専攻。大学3年次よりインターネット回線の訪問販売営業を始め、初月で売り上げ1位を経験。2019年2月より株式会社GiGsを創業しCEOを務める。“誰もが自分を表現できる社会”の実現に向け声や音声の可能性に目を向けている。



栗栖 崇(くりす たかし)

大学1年次よりベンチャー企業でインターンを行う。その後、デザインや動画制作を学び活動の幅を広げる。大学3年次よりベンチャーにて学生初の執行役員として活動し、海外インターンの運営から新規事業設立まで様々な業務を行う。櫻井のビジョンに共感し株式会社GiGsを創業 COOを務める。



声の可能性を信じてのプロダクト作り


ー今日はよろしくお願いします!現在はどのようなプロダクトを作っていますか?

櫻井:作っているプロダクトはポッドキャストで、簡単にいうとオーディオです。完全に音声に特化したオリジナルコンテンツ、ドラマみたいなものを作っています。今は僕たちの会社の立ち上がり期を、どんな流れで会社を設立し、どんな人と関わったかなどのストーリーを実在する人との会話をもとに、ノンフィクション題材にしたフィクションを作っています。

ー音声に注目したきっかけはありますか?

櫻井:栗栖(共同代表)とよく言語って微妙じゃない?みたいな話をしていたのが発端です。極端な話ですが、テレパシーで言いたいこと、感じたことが伝わればもっと分かり合えるのにみたいなことを話していました。

自分の感情や感性を文章のみで表現してしまった瞬間に、自分の感情や感性の解像度が落ちるような気がしていて…。解像度が落ちるとは、例えば僕がインタビューを受けて「楽しかった」ということを第三者に伝えても、どんな雰囲気でインタビューを受け、どういう気持ちが楽しかったのか、細部までわからない状態のことをさします。

解像度が落ちることが人々の分かり合えてない原因なのかなと考えています。

ーなるほど。確かに言葉の種類には制限がありますし、ライティングしていても「この人が伝えたいことってこの言葉であってるのかな」と不安に思うことが私自身よくあります。一つ思ったのですが、音声も言葉ですよね…?

櫻井:音声がテレパシーとテキストの中間地点だと思っています。明日からテレパシーで会話ってことはまず不可能です。では過渡期にどう変わるかっていうと、単純なテキストのやりとりだけではなく、その周りにある空間を転送することがベストな分かり合いなのかなと考えています。

言葉は全員が使えるツールですが、100%を伝えるには不完全で、全員に最適化されていると言われたらそうではないです。文章を書くにもテクニックが必要です。それに比べて、音声の利点はコミュニケーションを残しつつ、その空間のふんわりとした感じや雰囲気さえも送ることが容易にできることです。

例えばこのインタビューも音声だと案外ざわついた場所だなってことや、ゆのちゃん(インタビューワー)の声って思った以上に高いこと、会話している間に流れる空気感(気まずそう、和気藹々としてそう、片っぽが理解してなさそうetc…)などテキスト以上に感じ取れる要素が増えます。

photo by Toru Harada @maron10ru3


ーテキストとの違いはわかったのですが、映画やドラマとはどう違うのですか?

櫻井:違いは主に2つあると考えています。

一つ目は出演する人たちに限りがでてしまうこと。映画やテレビでは自己表現が上手い人、見せやすい人などが優先的に選ばれてしまいます。youtubeは誰もが出演は可能ですが、顔を出したくない人も多く存在し、誰もが100%表現できる場所とは言えないです。しかし、音声なら顔も出さないため、今まで表現できなかった人にもスポットが当てられるのではと考えています。

二つ目は映画やドラマはリアリティが低い点。映画のセットだと、どうしても風景を似せて、その瞬間を切り取るために再現性が落ちてしまう。また、時間の都合で短くなったり、視覚的に美しいこと以外が省略されることもあります。例えば起業家の映画はよくありますが、約2時間という長さでは起業家が毎日どのくらい仕事をし、どのように知識をインプットし、アイデアを出しているか、詳細に表現することは難しいでしょう。観客受けや起承転結、放映時間など、映画やドラマはあらゆる制限を課せられる特徴を持っています。そうではなく、映画やドラマでは省略されがちなところさえもピックアップすることで、よりリアリティを感じて欲しいと思っています。

photo by Toru Harada @maron10ru3


ーなるほど。ミッションに「時代の共振者が見つかる場所」と掲げていましたが、これはどういう風に事業と関わるのですか?

櫻井:言語化できないような雰囲気やニュアンスが分かり合えれば、共感によって人が集まりやすいのかなと考えています。

分かりやすくいうとアーティストなどのファンの結束力です。アーティストのファンたちで集まると、なんだか結束感がでてくる。こういう音楽が好き、こういうニュアンスが好き…こような言語化できない”好き”で集まる人たちには、無条件にお互い信頼してしまうみたいなことありませんか?そうやって言語化できない”好き”で集まると、コミュニケーションコストも減り、「あのバンドの、あの雰囲気を僕たちも作っていこう!」といったように、分かち合いやすく、やりたいことをする”共振者”が見つかりやすいのではと思っています。

あと、言語化できないニュアンスを共有することでより深い関係性を構築することができると考えています。人と深い関係性を結ぶことによって、結束力が高まり、”やりたいこと”に対する推進力があがるのではと思っています。

タリキチプロジェクトでのさらなる成長


ーお二人は※タリキチプロジェクト(以下:タリプロ)3期生ですね。もうすでにビジネスの経験が豊富な中、なぜ応募されたのですか?


※関西・福岡にて起業を志す若者が 2ヶ月間で社会課題解決のための事業立案からプロトタイプの作成までのサポートを行うプログラム。過去1年間で70名ほどが参加し、既に半数以上が起業・投資家からの資金調達・行政からの後援・社内事業の立ち上げなどの実績をあげている。

櫻井:事業の思想や思考はタリプロに応募する前から深めていたのですが、本当にこの事業内容でいいのか仮説検証を怠っていたため、タリプロのスケジュールに沿って仮説検証をしようと思いました。他人からスケジューリングをされたら嫌でも仮説検証をするので。(笑) 

ータリキチプロジェクトを卒業して、他人からのスケジューリングがなくなった今、プロダクトに対する影響はありましたか?

他人からのスケジューリングという強制力があるのもないのも、一長一短だなと思います。強制力がある中だったら嫌でも形にするのですが、本当に作りたいものを最後まで形にできなかったです。しかし、時間があればあるほど、僕はこだわるので、強制力があるのもないのも、どっちもどっちだなと思います。今は無理矢理にでも形にしないといけないフェーズなので強制力は欲してます。

タリキチプジェクトの卒業式でもあるBEYOND3.0にて。
photo by Toru Harada @maron10ru3


ータリキチプロジェクトのコミュニティで得たものはありますか?

栗栖:タリキチプロジェクトというコミュニティは、社会貢献や世界平和、環境保護など、世間では綺麗事と定義されるようなことを必死になって達成しようと日々思考・行動している人たちと、心の底から打ち解け、助け合える場所でした。今後、僕らがどんな困難にぶつかっとしても、僕らの生き方を肯定してくれる人がいるということは、起業という道を進む中で大きな支えになっています。

櫻井:タリキチプロジェクトのコミュニティは心理的な安全を強く感じられますし、僕が言いたいことの言語化がうまくできなくても、何とか理解しようと努めてくれる人が多いです。

もし今後、お金が尽きて生活ができなくなったり、身近な人が1人もいなくなったり…そんなどうしようもないことが僕に降りかかったとしても、このコミュニティの心理的安全性に少し救われ、前を向けるような気がします。

事業をつくる上で大切にしている”美しさ”


ー二人が事業を作る上で大切にしていることってありますか?

栗栖:”美しさ”だね。これは二人の中の不思議な共通言語ですね。

櫻井:持続性をあげたり、多くの人に届けるために、ビジネスというものがありつつも、便利なもの・儲けるためという理由でやるのではなく、僕たちの好きなものや思想が両立してこそ、僕たちが思う”美しい”事業になると思っています。大前提、これ儲かりそうだけどやっている僕たちが楽しくなかったり、届く人があまり幸せにならないようなものは”美しい”事業とは言えないです。

ーこれから事業作りや起業をしたいと思っている人たちに、何かアドバイスはありますか?

栗栖:今起業する人はどんどん増えていますが、うまくいかないことが大半です。そんな中でも本当に信頼できるパートナーを見つけたり、出会う人たちを大切にしてください。

櫻井:現在、僕たち自身を題材にした起業のリアルを綴ったコンテンツを作っています。

これは僕たちがどうやって事業を作り、会社を設立していったかを録音していますので、これから起業する人たちはぜひこの音声を聞いてほしいですね。

ライター:辻野結衣