サンゴを愛する男が導く、命の旅


太陽みたいな人。

昔は不良だったという彼は、ニカッと笑い、その場に彼がいるだけでなんだか楽しくなるようなユーモアを持つ。しかし、さらに近づくと彼のサンゴや、人に対する情熱がとても熱く、火傷しそうになるくらいだ。

まさに太陽みたいに。

今回はサンゴを愛して止まない彼の原動力がどこからきているのか、また、今後どんな事業をするのかお話を伺ってきた。


岸 大悟(きし だいご)Twitter : @Daigocoral

琉球大学卒業。タリキチプロジェクト3期生。

現在、Green Fingers(Twitter:@GF___official Facebook:Green_Fingers_Official)という団体を立ち上げ(6月に登記予定)、宮崎県でサンゴの養殖によるエンターテイメント事業を起こそうとしている。コンセプトは『命が根付く旅にしよう』。


サンゴと海に一目惚れした男


ーどんな事業をやっていこうと考えていますか?

大悟:サンゴの養殖をメインでやりたいのですが、それだけでは事業としては成り立たないので、エンターテイメントのように楽しみながらサンゴ礁の保護に携われるエコツーリズム体験を提供する事業を行おうと考えています。サンゴの植え付けをお客さんと一緒にやります。

ーサンゴに注目したきっかけは?

大悟:2年前にトビタテ留学ジャパン3期生として、フィジーに留学したことがきっかけです。もともとサメとウミガメが主な保護対象だったのですが、サンゴの調査もやっていました。その中で「人工衛星からもサンゴが確認できる」と書かれた記事を読んで、すごく引き込まれました。サンゴはもともとは小さい生き物ですが、群をなすことによって宇宙まで届くというところに一目惚れしたんです。

サンゴは群衆を作ることによって、小さな魚の隠れ家として役立っています。食物連鎖の中で、小さな魚は隠れ家がなければ、大きな魚に必要以上に食べられてしまい、生態系が成り立たないんです。

木が密集して森を形成し生態系の基盤を作り他の生物の住処になるように、サンゴも群を作って他の生物の住処となり、生態系の基盤を築いています。

誰かを受け入れて生産する要素をもつサンゴって本当に美しいと思いませんか?そんな美しさに魅了されました。

ー昔から自然や海に関心があったのですか?

大悟:両親が獣医で、小さいころから手術で血が見えるような中でおにぎりを食べるような環境でした。(笑)そんな両親の背中を見ながら「命ってなんで大事なんだろう、犬ってなんで生きているんだろう」と考えていた幼少期でした。

ーなるほど、小さい頃から命や生物について考えるような環境だったんですね。海に注目したのはいつ頃ですか?

大悟:中学の時にふとテレビを付けたら、海の中の映像が流れていて、一目惚れしたのがきっかけですね。当時は家が獣医ということもあり命って人間、犬、猫くらいだろうと思っていましたが、その映像で全く知らない世界を見せられましたね。

photo by Toru Harada @maron10ru3


ーサンゴも海も一目惚れで、その一目惚れに長年真摯にコミットしているんですね。なんだか素敵です。フィジーの留学をきっかけにサンゴに一目惚れして2年間、モチベーションをどう保ってきたんですか?

大悟:モチベーションは落ちることもないし、高揚することもないです。サンゴで事業をしようと決意してから揺らがなかったのは、フィジーで僕の親友がサンゴの養殖をやろうと誘ってくれたからです。その親友は、明日一緒にダイビング行こうと約束し、別れたすぐ後に交通事故で亡くなってしまいました。


その親友から「サンゴがカラフルなのは死にかけているから。あの色は人間の悲しみの涙と一緒で僕たちにこっちを見てくれ、助けてくれって訴えかけているんだよ。カラフルな色は美しいけど、最も美しいのはその訴えに気づいて、理解して、助けてあげることだ。」と言われていたんです。今でもその言葉が僕の中に残っています。

そして事実、僕は彼を救えませんでした。でも、彼と一緒に海を守っていこうと約束したことが自分の中で何かが変わった時でもありました。「僕にはまだ、守れる命がある。だから守ろう。泣いてる場合じゃない。」と奮起してからは、何だか一本芯が通ったように思います。

それからも日本に帰ってきて、僕の事業はすぐには認められず、友達からも「厳しいのでは?」と散々言われました。そんな中でも親友の言葉があったから、僕のやりたいサンゴや海を救うことは否定せず、自分のやり方が間違っているだけだと常にベクトルを自分に向けて、ここまで来ました。

ーサンゴの知識や養殖の経験は主にどこで得たのですか?

大悟:サンゴも海も好きで、両方を守りたいって気持ちだけで留学中はずっと動いていていました。琉球大学に復学した後もその気持ちは変わらず、どうやったらサンゴと海を守れるかを模索していました。


そこで、生物学を学びながらサンゴの研究を行い、僕の師匠である(有)Sea seedの金城 浩二さんの会社で6ヶ月のインターンを同時並行でさせて頂きながらサンゴのことを多く学びました。

タリキチプロジェクトでさらに磨かれた事業と感謝の気持ち

ータリキチプロジェクト(以下:※タリプロ)に入る前はどういう状況でした?また、入ってみてからどう変わりました?

※関西・福岡にて起業を志す若者が 2ヶ月間で社会課題解決のための事業立案からプロトタイプの作成までのサポートを行うプログラム。過去1年間で70名ほどが参加し、既に半数以上が起業・投資家からの資金調達・行政からの後援・社内事業の立ち上げなどの実績をあげている。

大悟:タリプロに参加前はサンゴの養殖で起業していこうと決めていたものの、どうビジネスにしていくかは全くわからない状態でした。入ってみてからは、事業をブラッシュアップさせていく速さや人間関係の濃さを体感しました。2ヶ月という期間の中でたかさん(taliki代表 中村多伽)や、実際に事業を運営しているメンターさんのスピードを体感できたことが得たものとして大きかったです。タリプロに参加していなかったら、いつかサンゴの事業ができたらなと妄想するだけで、無職のままだらだら過ごしていたと思う。(笑)

タリプロ3期生の卒業式である「BEYOND3.0」にてオーディエンス賞(観客による投票の結果、もっとも票を得た人に贈られる賞)を獲得。photo by tomoki maekawa


ーメンタル面でタリプロから影響を受けたことはありますか?

大悟:メンタル面では感謝の気持ちはものすごく増えました。2年間1人でやってきているので、人の大切さなどをわかってない時期がありましたが、タリプロのおかげで応援しているってよく声をかけてもらえるようになりました。人の大切さを身をもって知りましたね。

事業に対するこだわり

ー大悟さんはサンゴの養殖×エンターテイメントを掲げていて、どうエンターテイメントをサンゴと掛け合わせるんですか?

大悟:まず既存のエンターテイメントに僕自身すごく違和感を持ってまして。ゲームや遊園地などすごく楽しいのですが、終わった後すごく虚しくなってしまうような…。楽しかったものは全て虚構で偽物だったんだみたいな感覚がありまして。

それがものすごく僕は嫌で違和感を持っていました。既存のエコツーリズムも同じで自然から出てしまうとなんだか異世界だったなみたいな虚像感があるなと感じています。

僕が思うエンターテイメントは、体験が終わった後も思いを巡らすことができ、家路についている間でもワクワクする事実そのものだと思っています。

詳しくはまだ言えませんが、お客さんが僕たちのサービスを受けた後、現実に引き戻されるのではなく、家に帰った後も「サンゴちゃんと成長してるかな?」「海はどれくらい綺麗になってるだろう?」「宮崎にまた行きたい!」とワクワクする事実をずっと語り合えて、大自然とサンゴがいる宮崎を何度も思い出す、思い出してしまう!みたいな仕掛けを作ってきたいと思います。

ー最後に、今後の事業計画について教えてください。

大悟:僕たちは活動拠点を宮崎にしています。①サンゴ採捕許可の取得が可能であること、②サンゴが根付くことができる土地であることが宮崎で養殖を行う主な理由です。

現在、宮崎の日南市にある潮の杜の代表 小椋祥司さんに「是非一緒に海を守ろう!」と声をかけていただき、潮の社のプールを養殖場として使わせてもらうことになりました。地下浸透海水調査や配管工事、水質調査などを行い、サンゴの養殖場を作っていきます。1年後にサンゴの養殖がスタートできる状態にしておくことが目標です。

サンゴの養殖を開始できたら、次は植え付け体験をサービスとして提供していこうと考えています。老若男女全ての人が「好きな服装」「汚れない環境」で行える植え付け体験にしていきたいなと思っています。また近年では、怪我をしてはいけないからという理由で修学旅行などで子どもが自然に触れる機会が少なくなっています。そんな時代だからこそ、自然に触れて子どもたちを自然と同化させてあげたいという気持ちが強いです。

最終的には宮崎の海岸を「ハナウマベイ(ハワイの海岸)」のようにワクワクする観光スポットとして、サンゴが根付いた命いっぱいの世界を皆さんと一緒に作っていけたらいいなと考えています!

Green Fingers のメンバー全員で。左から二番目が大悟さん。


現在、岸大悟さんが運営するGreen Fingers では宮崎県でサンゴの養殖場を作るためにクラウドファンディングを行なっています。未来に美しい綺麗な海を残すため、ぜひこの機会にGreen Fingersを応援してみませんか?